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藤 英代さんの絵(3)




藤 英代さんの絵(3)  ~ 生き物が現れたように ~

私は、一度 何もない空間を想定してみなければならない、と思った。
皆無・・・という語が頭に浮かぶ・・・。

知る限りの「無」を想像しようと思った。
あるいは「絶望」の様なことを考えた。
救いを待っているだけの、しずかな「孤独」を考えた。
世界がだんだん遠ざかっていくような、めまいを追ってみた。

そして、やっと「物語」を考えることができる、 そういう瞬間が現れる、という予感が起きた。

乾いた砂がどこまでも、幾日も続いていた、そういうある朝のことだ。
それまで、その世界に水は無いのだ・・・、としか思えなくなっていたが、 ついに私は目撃したのである。
その箱の底に、うっすらと、見落としかねないほどの、湿りがみとめられたのである。

すでに私は、おかしいではないか、と思うようになっていた。
一体どこから 湧いたのだ?
ここには、砂漠の乾燥しか見えないのに、この微かな水気はどこから来たのだ?

同時に、私は、体中に水を蓄えた生き物の形姿を想い描くこともできた。
私に向かって、 何事かをささやくことができる、
私に対峙する存在がいるぞ、と私はおののき、興奮した。
待ち望んでいた、水気の出現は、不可能を超越して私の前に、そのようにやって来た。
いま目覚めたばかりの、その生き物は、
あなたと似てはいるのだが、あなたではない、「私は私なのだ」・・・、 そのように現れてきた。(上図)
・・・・・・・・・・・・・・・・・。

藤さんの絵から、かれらの呼吸がはじまる・・・。
私達の日常に、生き物の主体 ではないように そこに、あるいは ここに ただ在った、あるいは ただ在る だけの ものたちが、 実は、一個の主体として居るのだぞ、というように、
・・・自ら動き出す存在として、 そういう呼吸をはじめる・・・・・。

2020年1月28日   文   ことのは 宇田川 靖二
 


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